I-LAND 君だけの光と声を

アドベント・カレンダー3日目です

こんにちは。はじめまして、南極先生です。はとさん(@810ibara)のアドベント・カレンダー2つめ、12/3の記事を担当します。

恐れ多いことに、昨年に引き続きの参加です。昨年はNetflixオリジナルオーディション番組「リズムアンドフロー」とDSMOKEの話をしていました。

 今年もまた、大好きな人の話をします。アドベント・カレンダーを開けながらクリスマスの朝を待つように、待ち続けている推しのお話です。

 変わらなかったこと2020

今年のテーマ、「変わったこと/変わらなかったこと」ですが、まず変わらなかったことは「またオーディション番組見てる!」ことです。変わったことは後述します。

わたしがこの夏夢中になったI-LANDは、6~9月の間放映されていた、韓国発サバイバルオーディション番組です。参加者であるアイドル練習生は、世界中から集まった青少年23人。全12回の放送を経て、7人のデビューメンバーを選び出します。

 

説明不要の最強アイドルBTSを擁し、韓国のアイドル事務所でトップのBigHItと「プロデュース101」シリーズのCJが、番組構想3年、施設総工費20億円をかけたプログラムです。20億。ちょっとよく分からないので調べてみました。総工費20億円をかけると、千葉県にある某シンデレラ城が築城できるようです。ワォ!ファンタズミックここでわたしの150日を変える出会いが待っていました。


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into the I-LANDすること

まずは、I-LANDはヤバイという話をしたいです。 メチャ面白いのと同じくらいの地獄みもあるのですが、抗えない中毒性がありました。ほんの一部をご紹介します。(ネタバレ要素ありです。ご注意ください。)

 

まずは総工費20億円のI-LANDを覗いてみましょう。すべてのセットが映画のようです。


[MV] I-LAND _ Into the I-LAND (applicants ver.)

みどころ:曲はシグナルソングの「into the I-LAND」、キラキラとした出会いの曲です。RAINとZICOがゲストプロデューサーで参加しています。

 

I-LANDは「アイランド」と「グラウンド」というグループ分けでスタートします。2つには明らかな格差があり、まずは全員が「アイランド」を目指します。

「アイランド」と「グラウンド」を振り分ける「入場テスト」を経て「アイランド」に足を踏み入れた16人。まず目に入るのは、残り時間をカウントダウンする不気味な卵(超巨大)です。一方別の階には、日の光が差し込むリビングルーム、インスタント食品で満たされたパントリー、ふかふかのベッドが並ぶ生活スペース。無邪気に走り回る爽やかなアイドル練習生の「天国みたい!」「ずっとここにいたいな…」そんなはしゃぎ声が聞こえてきます。

待って。

漂うディストピア感をキャッチしました。

なんだか萩尾望都先生の名作「11人いる!」のようです。I-LANDはまるで漂流する宇宙船白号。もちろん「11人いる!」はディストピアジャンルではありませんが、I-LANDはSFとの親和性も高めです。

11人いる! (小学館文庫)

11人いる! (小学館文庫)

 

 クロレラ人造人間のガンガが好きです)

 

<23人いる!I-LANDの参加者>
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作りこまれた世界観、韓国のオーディション番組のなかでもダントツの話の早さです。

歌やダンスのパフォーマンス以外の物語性も高いので、初回放送後すぐに島民となり、金曜23時(放送日)のことだけを24時間考える生活がはじまりました。

 

・選び選ばれること

I-LANDは、練習生が様々な選択を通して成長します。前半であるパート1とデビュー組7人が選ばれるパート2で選択の視点が変わります。ここにこそI-LANDの面白さと中毒性があります。わたしが最も心を乱された部分をまとめました。

 

パート1:自分の役割を選ぶ・理想のメンバーを選ぶ

初回放送で先制パンチをお見舞いされます。「入場テスト」です。

初めて23人が集まったステージ、突然少人数のグループパフォーマンスが始まります。概要はこう。パフォーマンスの順番は自分たちで決めよ!1組終わったら、対象1人に対して全員が挙手で合否をジャッジ!半数以上の手が上がれば「アイランド」にIN!入れなかった場合どうなるかは教えない!あまりの唐突感にザワつく練習生たちです。プロデューサーも別室でモニタリングするのですが、評価には関わりません。練習生が自分の思う「カッコイイ」「実力がある」という基準でふるいにかけます。明らかに周りの様子を伺いながらおずおずと手を上げ下げする様子に、「この番組、大丈夫でしょうか…?」と、見ているこちらも不安になります。この挙手式の入場テストはその後に続く布石でした。

パート1は自分で役割を決め、理想のメンバーを選ぶところにドラマがあります。

歌やダンスの上手さ、人間性、リーダーシップ、もともと持っているスキルの数が多いほど練習生同士の評価は高くなります。

パート1はすべてを自分の感覚で選べばよいのです。これがパート2では一転します。

 

パート2:評価されるメンバーを選ぶ・評価されるチームを作る

パート2は視聴者投票で10人が脱落するところから始まります。デビューメンバー7人が決まる、最後の戦いです。

 

パート2では練習生同士の降格投票がなくなります。毎回順位づけがされ、ベッドや椅子にも現在順位が掲示される、順位に統制された世界が始まります。

順位はプロデューサー評価と視聴者からの人気投票で決まるので、練習生の視点もそちらにシフトしていきます。自分の感覚を超えた、評価軸(プロデューサー評価・視聴者人気)を意識する視点への変化です。パート1では歌やダンスの能力で並んだ練習生の序列も、プロデューサー評価と視聴者投票では簡単に覆ります。このあたりから存在感を増してくるプロデューサーの「成長の可能性」という言葉を上手く飲み込めるかで、視聴者的天国と地獄が分かれます。

わたしは早々にプロデューサーとの解釈違いが発生したため、あえなく地獄行きでした。行先が地獄の場合、パート2で生まれる数々のドラマは涙と憂鬱の釜茹で地獄です。脱落者が出るたびに自分も視聴を脱落しそうになるのですが、熱々の釜の淵にへばりつき、ぐっと堪えます。さらに突然順位通りに脱落しない「脱落免除権」なる燃料も投下されるので、いつでも釜上げ、スタンバイ。輪廻転生、生まれ変わったらプロデューサーとそりが合う生を送りたい…?いや、曲げたくないものもあります。

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心象風景:自分の見た光を信じたい

 

それでも、練習生たちの進化と成長にはほんとうに心を動かされます。I-LANDで練習生が過ごした時間は113日間。ステイホームを余儀なくされた今年の夏、わたしもI-LANDで全て感情を味わったのだと思います。

プロデューサーとの解釈違いで苦しい思いも沢山したけど、練習生たちは全員間違いなく最高に輝いていました。ENHYPENとしてデビューした7人、本当におめでとう!


[I-LAND/최종회] 모두, 함께 아이랜드로 ♬Into the I-LAND Final Ver. 200918 EP.12

 みどころ:再びのシグナルソング「into the I-LAND」です。最終回、参加者全員で行う最初で最後のパフォーマンスでした。全員「アイドル」としての成長と輝きが凄い。自分だけの光を見せるためにここに来たんだね…!と強く思わされます。

 

ここから推しの話

もちろんのこと、わたしにも猛烈な推しがいました。推し、ゴヌくん(19)です。

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・「完成のハニーボイス」ーそして踊れる

ゴヌくんの番組公式キャッチフレーズがこちら、「完成のハニーボイス」です。発表時、なんてぴったりなんだ~!!と膝を打ちました。そうなんです。歌が最高なのです。

「ハニーボイス」の名前の通り、気持ちよく伸びる高音と、クリアでパワフルな声が特徴です。近年トレンドの「吐息交じりのウィスパーボイス」ではないですが、それがまた、ハーモニーに厚みをもたせてくれる存在です。

そしてゴヌくんは踊れます。体幹の整ったダンスは正確でキレもよし。歌って踊れるアイランダーとしてステージの中心メンバーでした。

 

パート1課題曲:Butterfly


[ENG] [I-LAND/4회] 세 번째 테스트_총대 유닛 ♬ Butterfly_I-LANDER 이건우 & 이희승 200717 EP.4

 

みどころ:課題曲はBTSの「Butterfly」です。華やかにリードするヒスンくんと、ゴヌくんの繊細なパフォーマンスが最高です。総代戦唯一の同級生ペアなのもアツイ。2:26の表情だけでも見てほしい。2:26です。2:26。

 

・ここに来た意味

アイドル練習生のサバイバル番組と聞くと、どんな様子を思い浮かべるでしょう?

今まで積み重ねてきた練習時間、犠牲にした青春時代、流したBlood Sweat&Tearsを捧げてパートを奪い合い…蹴落としあい…デビューを掴みにいくんだね!?と思いきや、そうでもありません。目立つパートはその分プロデューサー評価も厳しくなるので、練習生たちは挑戦に対しとても慎重です。パート決めは奪い合いではなくほぼ推薦です。

わたしがゴヌくんを推しまくる最大の理由。パフォーマンス力やキャラクターももちろんですが、自分で自分の物語を作れる人だからです。ゴヌくんはリスクを取ってでも主要パートや代表に挑戦します。だからI-LANDのどのシーンでも、何をしにここに来て、何のためにここにいるのかが明確でした。見ていてとても清々しいのです。オーディション番組にセットである「悪編」にまつわるいろいろなアレが、I-LANDにもありました。でもゴヌくんは、番組の編集の届かないところで一人鮮やかな物語を見せてくれたんですよね。しかも実力があるから説得力もある!そんなところが大好きだ~!!


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好きな食べものはバナナ。

 

変わったこと2020

・オーディション番組との心の距離

 昨年わたしが胸を焦がしたオーディション番組「リズムアンドフロー」は「今一番強えぇやつが勝つ」番組でした。大変分かりやすかったです。一方I-LANDには、異なる評価軸が存在しました。「成長の可能性」です。「成長の可能性」。なるほど!わからん。ウ、ウェーン…わかりませんでした…(涙)。推しに限らず「このパフォーマンス、いいぞ!」と思った子がプロデューサーに評価されないことが、こんなに苦しいものだなんて。オーディション番組あるあるなんですが、あまりに辛い。このもやもやした気持ちが大きくなるにつれ、また別の新たな感情が芽生えました。

 

・愛されるより愛したい、よりも

「推し、世界にめちゃくちゃ愛されてほしい!!」 という感情。友人に布教してカフェで推しのこと夜が明けるまで喋り倒したい以上の、もっと地球規模で熱烈にめちゃくちゃ愛されてほしいな~~!!という特大感情です。もちろんきっかけとして、番組の中で視聴者投票があったというのもあるのですが。もっと推しの素晴らしさを世界に説いて回りたい。でも、どうすれば。

 

 ・供給の途絶えた世界で

I-LANDが終わってから2ヵ月が経つ頃、脱落した練習生の情報はほぼ途絶えました。そうなってくると、誰かが呟く推しのツイートが新規の供給みたいな世界になってきます。ありがたい。とても心が温まります。それでもやっぱり見たくなる、新しい姿。

「オッケー、描こう」脳直で財布が開くタイプの人間なので、その日にタブレットを購入し、届いた日から描き始めました。


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推しの練習着を着せたシルバニアの赤ちゃん。

今まで見る専門だったファンアート、自分の手で推しを描く気持ちは、なんだろう、ちょっとまだ言葉で現わせないのですが。絵に限らず、ファンが愛を詰め込んだ文章・動画・手作りの品を見るのが大好きです。公式の供給に反応する刺激や楽しさとは違う、今は良い知らせを待つ祈りのような。K-POPを知ってからずっと好んできたファンアートですが、なんでずっと好きだったのか、その理由が分かった気がしました。

 

 おわりに

世界がすっかり変わった2020年。諦めたものを数えると溜息が出ます。ちょっとまだ総括できない感じです。

自分は諦めがいい人間だと思っていました。気持ちの切り替えが早くて、要領がいい(と自分で思える)自分が好きでした。でも本当に諦めたくないことに出会うと、何しても全然諦められないんですね。そこに要領も、生産性もありません。諦められないものと、諦めたいろいろを重ねると、自分が譲れないものがなんなのか、よく分かる一年でした。

2021年は諦めることが今年より少ないといいなと思います。わたしも、これを読んでくださってる人も、世界中の人も!2020年より沢山幸せになりましょうね。

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さてさて、ぽっぽアドベントはまだまだ続きます。4日目はShinoさんの番です。

クリスマスまであと22日!!

 

【お知らせ】I-LANDは現在Abemaプレミアムで配信中です。いつもは課金しないと全話見ることができませんが、なんと12/5(土)は24時間限定で全話無料配信だそうです。気になる方はぜひ!告知で締めてすみません!

 

追記(2021/6/26)

今日はI-LANDの初回放送日からちょうど1年。

 

ゴヌ、この夏ついにデビューします~~~~~~~!!!!!!

本当におめでとうゴヌ!!心からありがとうBluedot(Kakao系列の新設事務所)!!!

これからよろしくJUSTB(6人組ボーイズグループ)!!!I love you guys....もう既に愛してます。

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(左からサンウ、ドヨム、ゴヌ、JM、LIM JIMIN、ベイン)

 

I-LANDが終わり、勝者のENHYPENがデビューしたのが2020年11月30日。

I-LAND脱落者からの派生グループのデビューが公式発表されたのが2021年元日。

BigHit JAPAN(現HYBE LABELS JAPAN)のデビュー組ラインナップにゴヌがいなくて、もう2021年やめたいと思った正月から、2/3のセンイル(誕生日)翌日にTwitter開設。

そこから5月に突然デビューの噂が吹き荒れてからの公式発表!

6/30JUSTBとしてデビュー!!!

 

「自分の見た光を信じたい」その気持ちを信じて待ってて本当によかった。

 

JUSTB!!世界にめちゃくちゃ愛されような!!

 

デビューアルバム「JUST BURN」トレーラー

youtu.be

 

デビューアルバム「JUST BURN」ハイライトメドレー

youtu.be

ファリス兄弟と愛しいものへの個人的な祈り

はとさん(@810ibara)主催のアドベントカレンダー15日目、12/15の記事です。
(わたしが動かされたもAdventCalender2019:https://adventar.org/calendars/4375

わたしのコンプレックスは「声が通らないこと」だ。
声が小さいわけではないが、とにかく周囲に伝わりにくい。居酒屋で店員さんを呼ぶ「すみませーん」も、コンビニでの「あ、袋いりません」も、一度で聞きとられた試しがない。コンサートで推しの名前を叫んでも、数十センチ先で虚しく霧散していくのを感じる。
このコンプレックスのせいか、声の大きな人が昔から苦手だった。大きな声で、無遠慮に強い言葉を投げる人と距離を置いてきた。実生活でも、SNSでもそうだ。
この苦手意識が、人前で自分の好きな人、いわゆる推しについて自ら声高に語ることを遠ざけてきたように思う。

自分の心は自分だけのもので、自分が感じる好きな部分を好きなように好きでいたら、言語化することはそれほど重要じゃないと思ってきた。なにより、言葉にすると、肯定否定どちらであれ、返される言葉で自分の大切な世界を傷つけられるのが怖かった。
このアドベントカレンダーの記事も、11月中にはほぼ書きあがっていた。テーマは変わらないが、「野暮な詳細は語らないから、とにかく彼の音楽を聞いてみて」で締める形式の(今思うとつまらない)記事だった。
だけど、12月に入って、次々と開く鮮やかなアドベントカレンダーを読んでいくうち、小さく疼く気持ちに気づいた。その熱量、その文字数、それぞれの愛と驚きに満ちた物語。そうだ、テーマは「わたしが動かされたもの」。そこに正解も、模範もない。
わたしも自分の感じることをそのまま語ってみたいと思う。

前置きが長くなりましたが、この記事では、ある秋の日にアメリカは西海岸イングルウッドのラッパー、DSmokeに恋した話を書きます。
洋楽にはほぼ造詣がなく、ただただ1つの配信番組を見続けた者の記録である点、お含みおきください。

※Rhythm+Flowのネタバレを含まずに書くことが難しかったため、内容にやや触れています。これからご覧になる予定の方はご注意ください。

<Rhythm+Flowという番組>
DSmokeはNetflixで10月より配信が開始された「Rhythm+Flow(リズムアンドフロー)」というオーディション番組の参加したアーティストだ。
カーディB、T.I、チャンスザラッパーの3人が審査員となり、未来のHIPHOPスターを選び出す。Netflixで初めてのリアリティオーディション番組である。
この番組の面白いところは、優勝者に与えられる賞品が、メジャーデビューや大手事務所との契約ではなく、賞金25万ドルとSpotify主催のライブへの出演権だけである点だ。だから参加者はまっさらな白地である必要はなく、既にインディーズでバリバリ活動している人や、犯罪歴あり、妻子持ちなどバッググランドは様々。
優勝を逃したとしたとしても、勝ち進めた参加者は、大物制作陣との楽曲制作や、有名アーティストとのコラボステージなど、夢のようなチャンスが与えられる。
それでなくてもこのSNS時代、番組を通して獲得する世界的な知名度は、インディーズのアーティストにとってそれだけでも充分な参加理由になるだろう。

この番組を見始めたきっかけは、「なんかスカッとしてーな・・・」みたいな気持ちからだった。このころの自分はとにかく疲れていた。
わたしはここ何年もK-POPアイドルだけを見てきた。K-POPは、それこそいわゆる“WholePackage"のエンターテイメントだと思う。
トレンドの楽曲、高い歌唱力、一糸乱れぬダンス、磨き抜かれた容姿、愛嬌のある仕草。メンバー同士の絆やケミ。コンセプト。ビハインド。望む以上の全てを見せてくれる。
契約問題、事務所のトラブル、不都合な真実噂話は火のないところに煙を立てて。できれば見たくない、望まないことも、それ以上に。
今年は特に、ジェットコースターのように光と闇を行き来した。大切な人たちの未来に思いをはせて、勝手に憂鬱な気持ちになることが多くなった。
ちょっと気分を変えるつもりで見始めたのが、Netflixで配信が開始されたばかりのRhythm+Flowだった。

ところがどうだ。
見始めたら最後、スカッとどころか、後頭部をドカドカ殴られまくって、意識朦朧のなかぽいっと高速道路に放り込まれるような。抜け出せないほどはまってしまった。中毒症状のように毎日毎日エピソードを繰り返し再生し、iTunesで関連楽曲を狂ったように買いまくった。
そんな秋を過ごし、気づけば冬になっていた。

<DSmokeという人>
DSmokeは最初のエピソード、1話で行われたLA地区大会から、すでに見逃せない存在だった。
ボクシングで鍛えられ堅く締まった長身、長めで細いドレッドヘアを後ろでくくり、丸いニット帽とグレーのジャンプスーツ。
ジャンプスーツがはまりすぎていたので、パフォーマンス中に審査員のカーディBから「掃除係?」なんてからかわれていた。
しかし彼は子供たちにスペイン語と音楽を教える学校教師である。参加者の中で唯一、曲の中にスペイン語の歌詞を織り交ぜていて、そこがとても印象的だった。
歌詞の内容は彼の自己紹介的なものだったが、言葉選びに知性が滲んでいるように感じた。成り上がりを目指すゲットー育ちのラッパーの歌詞といえば「金と男女とワルいこと」ではないのか。LA予選は危なげなく通過。
単に外国語を使っているから知的に見えるわけではない、彼は語るべき物語を持っている予感がした。


<運命のサンプリング>
「Rhythm+Flow」の大会構成を少し。予選はLA・NY・アトランタ・シカゴの4つの地域で行われる。
そこから総勢30名が選出され、本戦であるLA大会に進む。
LA大会ではサイファー、バトルラップ、MV制作、サンプリング、有名アーティストとのコラボレーションを経て、勝ち残った4名で決勝だ。
MV制作以外は全て本番一発勝負のため、地区予選で抜群の存在感を見せていた参加者も、ステージ上で歌詞を忘れてあっさりと落とされる。
こういったコンペ番組につきものである各々過去のビハインドストーリーや、参加者同士の交流シーンがそれほど多くないのも見やすいポイントだ。参加者のほとんどが貧困や銃社会の影響を受けていて、胸が痛くなるエピソードも多かった。それでも、ステージに立つときは1人なのだし、評価されるのは曲とパフォーマンスなのだから、その物語性に引きずられない番組構成がいい。

わたしがDSmokeに完全に落ちた曲は、ジョージ・クリントンの「AtmicDog」(すみません、原曲知りませんでした)をサンプリングした曲だ。
ここでDSmokeは致命的なミスをする。ステージで歌ったことがない会社員にも分かる、絶望的なミスだった。
このステージは、観客もそれまでのステージより格段に多い1000人以上。複雑な舞台構成で、チャンスはもちろん1度きり。

しかし不思議なことに、わたしは最初にパフォーマンスを見たとき、彼のミスに気がつかなかった。それどころか・・・
「AtmicDog」をベースにテンポが落とされた曲にのって、パフォーマンスは続く。曲の中盤、ミスに気づいた審査員3人は顔をしかめて首を振った。
それでもステージは盛り上がった。笑顔で歓声を上げる観客。
彼の地元、ギャングが大手を振るうイングルウッドのストリートを模したステージセット。床には犯罪現場を匂わせる人形のチョーク・アウトライン、星空とネオン。
美しいメロディにのる散文的な歌詞。
パフォーマンスの最後は大歓声だった。涙が出た。圧倒的な3分間。

カーディBからの最初の評価で、このステージでミスがあったことを知る。
DSmokeが審査員達からどう総評され、このステージの結果がどうなったかはここでは語らない。
わたしはこの「AtmicDog」のパフォーマンスで、完全にDSmokeに恋してしまった。

DSmokeの良さを何か一つ上げるなら、終盤のステージでの楽曲制作で、プロデューサーのサウンウェイブに
「最悪なアイディアか天才かのどっちかだよ」
と言わせたところだ。痺れる。
番組の中でDSmokeは、この大会への参加目的はアーティスト性の確立であり、賞金25万ドル獲得ではないから優勝しなくても目的は達成していると言った。それでも、ステージの後には「勝ちたい」という彼。どっちなの。根っからのファイターだ。ギターもピアノも弾けて、ステージは最高。勝つために120%の実力を出し切るというよりは、この番組のお金や大物プロデューサーを活用して作り上げるステージを楽しんでいるようだった。

▼Rhythm+FlowでのDSmokeのステージ(本編を見る予定のない方向け)
https://youtu.be/BQ7IAbWKmzg

▼For the ART(DSmokeとピアノ)
https://youtu.be/XJYEUYaBaXI


<弟もいる ファリス兄弟>
さて、DSmokeに心を奪われたわたしは、iTunesで買える曲を全部買い、彼のinstagramをフォローし、YouTubeで見れる番組やMVを全て見つくした後、困ってしまった。
毎日毎日、移動中はDSmokeの曲を聞き、家にいる間はRhythm+Flowを字幕を見なくてもセリフを言える位繰り返し見て、歌詞を日本語訳してみたりして。
それもやりつくすとぼんやりしてしまった。なぜなら彼は10月に世界に出たばかり。当然のように供給が少ない。さすがに少し立ち止まった。
友達に布教して彼を語るか?それは前述のように得意じゃない。
ネットを駆使して彼を調べつくすか?でも、それって自分がK-POPに感じる疲労の元で矛盾じゃないか。
とりあえず家族にRhythm+Flowwを勧めてみた。すぐに良さを理解してくれた家族はカジュアルにネットでDSmokeを検索した。
「弟も歌手なんだね!」

弟・・・?
そう、DSmokeにはSiRという弟がいた。ケンドリック・ラマーらを擁するレーベルTDEと契約してアルバムやツアーを行う実の弟。そういえばRhythm+FlowでDSmokeの応援に来た家族の中に兄と弟がいた。
家族から弟SiRのインタビュー記事を送ってもらった。最新アルバム「ChasingSummer」について、彼が追いかける“自由”を夏に例えるSiR。
「ChasingSummer」も間違いない名盤だった。DSmokeよりも感性的で、少しノスタルジックなSiRの楽曲も大好きになってしまった。

▼SiRの該当インタビューは記事こちら
https://hypebeast.com/2019/10/sir-chasing-summer-tde-interview


Soul Train Awards>
兄からの弟って、さすがに無節操かしら。
そんな気持ちで過ごしていた秋の日。11/15、突然の爆弾投下である。

instagramを開くとストーリーにDSmokeとSiRが並んでいる。にこにこしながらアイコンをタップした。

「?」

同じ動画である。DSmokeとSiRが同じ飛行機でどこかへ出かけて、同じ風景の動画を上げている。それぞれお互いの曲をタグ付けしながら。
二人はラスベガスに向かったらしい。何故。
その2日後に更に息を飲む出来事が。二人が同じステージに立っている。Soul Train Awardsというライブだ。
マイクを握るSiRとピアノに向かうDSmoke。コラボステージ・・・Oh。。。

Soul Train Awards SiRとDSmokeのステージ
https://www.instagram.com/tv/B5BAoKbAJzQ/?igshid=r98f6oaaybpx


DSmokeはRhythm+Flowのなかで、家族は神からの恵みであり、何より大切なものだと繰り返し言った。
SiRはストレスフルなアーティスト活動において、自分を正気にさせるのは家族の存在だと言った。
そんな2人が1つのステージに立つことが、お互いにとって幸せな時間だったら、これほど嬉しいことはないと思った。


<とても個人的な祈り>
DSmokeは番組の中で「誠実な音楽を届ける」と言った。
誠実な音楽とはなんだろう。分からないまま冬になった。
ひとつ確かに感じるのは、DSmokeの音楽からする"自由"の匂いだ。SiRが夏に例えて追いかける"自由"。

SNS、特にTwitterを開くとついやってしまう癖がある。
素早く何度かスクロールをして、自分が大切に思う人に「良くないこと」が起きていないか確認する。それからでないと、安心してタイムラインが読めない。
「良くないこと」に、本当に心が砕かれるときがある。真っ暗でどうしようもなく辛くて悲しい、そんな思いを何度もした。
することが増えたように思う。

人生は短い。できれば美しいものだけに囲まれて、語られるべき驚きに満ちた物語の下、愛する音楽に心を溶かしたい。
誠実な音楽とはなにか。わからないけど、愛すべき語り手にわたしは祈る。
「元気で」「頑張って」なんて、求めすぎているようで、とてもじゃないけど願えない。
ただ、小さく、これだけ。

「大切な貴方に、幸せだと感じる時間が、一瞬でも多くありますように」



<#ぽっぽアドベント アドベントカレンダーに寄せて>
タイムラインではとさんのアドベントカレンダー企画を見つけたとき、学生の頃読んだ、ヨースタイン・ゴルテル著書の「アドヴェント・カレンダー」を思い出しました。
幼いヨアキムが、父親と立ち寄った本屋で見かけた古いアドベントカレンダー12/1の朝、わくわくしながら窓を開けると、出てきたのは小さな絵と2000年の時を超えた物語の1編。この本が大好きで、夢中になってヨアキムと共に24日間の旅をしたことを思い出しました。

語らざるをえない物語を語る、この魔法のような企画に出会えてとても幸せです。

はとさんありがとうございました!